私たちが暮らす町には車が通る大きな橋が架かるほどの川だけでなく、長靴程度で入っていける小さな川もあります。
流れの速くない小川には、淡水の小さな魚たちが暮らしていますが、その中にはタナゴと呼ばれる魚もいます。
タナゴの仲間は全国に11種8亜種 外来種2種が生息しており、その多くは絶滅に瀕しています。
日本の淡水魚はペットショップで売られている海外の熱帯魚などに比べると、地味な色合いが多いのですが、このタナゴは種によっては負けないほどの魅力ある魚です。
また、繁殖の方法も他の魚にはない独特なものです。
タナゴは二枚貝のエラの中に少量の卵を産みつけます。
親がせっせと外敵から卵を守ったり、水草などに大量の卵を産むわけでもありません。
硬い殻に守られた二枚貝のエラの中に産むことで、外敵から食べられることがありません。
また、貝の呼吸で新鮮な水が常時入れ替わり、卵にとって安全で快適な環境を確保しているのです。
ところが、近年災害対策などのために行われる河川改修で、二枚貝の生息する環境が失われています。
二枚貝がいなければタナゴは繁殖することができず、二枚貝の減少がタナゴを絶滅危惧種にしてしまった原因の一つなのです。
水槽でタナゴを繁殖させるときに、自然で減少している二枚貝を採取してきてしまっては、自然のタナゴを減らしているのと一緒です。
そこで、水族館では二枚貝を使わない繁殖を行っています。
シャーレの中にメスの卵を搾り出し、オスの精子をかける人工授精です。
受精後、20~25日程度で、稚魚となり泳ぎだしますまで、孵化器の中に入れ温度管理して、毎日水換えを行います。
しかし、毎日水換えをしても、常に呼吸をしている二枚貝には到底かないません。
また、成長が悪くシャーレの中で死んでしまうことも少なくありません。
無事、泳ぎだした稚魚の姿を見ると飼育係として、とてもうれしいものです。
魚類課 鈴木 泰也