【世紀の大発見に立ち会った一日】
森 徹(元 展示部 魚類課課長)
世界で7番目、メスとしては初記録の全長471㎝、体重790㎏のメガマウスザメが1994年11月29日発見されました。Ⅱ期オープンを控えた当時は、全国から運ばれてくる生物を収容し、新しい水槽の管理に追われる日々でした。
あの日も朝の点検を終え、一息ついた頃、一本の電話が鳴りました。「海岸に大きな動物が打ちあがっている。」「黒い鯨のような鮫のような動物。」「大きさは4~5mくらい。」私は係員を連れて現場に向かいました。
広大な干潟の彼方に、すぐに黒い影を確認し、遠くからでも大きく頭が丸いことが判ります。「おお!メガマウスだあ!」発見者は私たちがなぜそんなに興奮しているのかを理解できなかったそうです。
興奮したまま水族館に連絡すると、当時の館長に「確かなのか?滅多なことを言うんじゃない!」と信じてもらえなかったそうです。それでも貴重な資料で、動かせられない状況から、係員の応援とトランシーバーを要請しました。
水族館から情報が発信され、続々と報道関係者が干潟に駆け付けました。潮が満ち始めた頃には応援係員も駆け付け、メガマウスザメを大型鯨類の輸送用担架に包み、海浜公園管理事務所から駆け付けたユニック車の荷台に大きな尾ビレをはみ出しながらも載せることができました。
水族館にはこれほどの大きな物を収容する冷凍庫がありません。冷凍会社に保管を相談したところ、横浜冷凍株式会社が快く引き受けてくださいました。冷凍庫へ収容した頃、辺りは夕焼けに包まれていました。
メガマウスザメは、研究者で発足したチームによって公開解剖を経て多岐にわたる研究が行われました。Ⅱ期オープンには、エントランスに設置した世界初の全方向から全身が観察できる展示ケースに収めることができました。
当時はサメの展示種類数日本一を掲げたオープンだったことから、メガマウスザメがそれに間に合うようにやってきてくれたことに、なにか神がかりな縁を感じました。