【水族館立ち上げから未来へ】
中村 雅之(館長)
マリンワールド海の中道は、美しい自然資産に囲まれた国営海の中道海浜公園内に、国土交通省九州地方整備局により設立されました。平成元年のⅠ期工事では半分の規模で開館し、その後Ⅱ期増築工事を経て平成7年に現在の姿でグランドオープンしました。平成の年号とともに生まれ、平成29年4月12日には半年間の休館を伴う全館リニューアル工事を経て、時代に合わせた新しい姿に生まれ変わりました。
思い起こせば、昭和63年に天神渡辺通りビル街2階仮事務所に水族館準備室が設置され、開館に向け準備が始まりました。当時の立ち上げメンバーは、到津の森動物園で長年園長を務められていた森友忠生氏を館長に向かえ、わずか3名の水族館勤務経験者が中心となり、その他は新人飼育係のみでした。わずか1年間という短い準備期間で開館を迎えましたが、今でも鴨川シーワールドの技術援助を受けながら不安と闘いがむしゃらに準備していた当時の日々を思い出します。
開館時は、福岡県の玄界灘を北上する「対馬暖流」を展示テーマに掲げ、魚類展示は対馬暖流に沿って亜熱帯域から寒帯域に生息する様々な生物種を地理的に配置し、最先端の映像解説機器を備えていました。ショープールは水量2,000トン、2つのホールディングプールが隣接整備され、博多湾を背景にアシカ・イルカショーが演じられました。
平成7年のグランドオープンでは、水量1,400トンの魚類大水槽を中心に、教育普及活動の充実を目指し生き物たちの特異な能力を紹介するマリンサイエンスラボや海洋動物プール、講話・シンポジウムなどを開催するマリンホールが整備され、現在の水族館の原型が完成しました。
30年の歴史を振り返ると、平成7年のグランドオープン、そして平成29年のリニューアルオープンと、改修大工事の度に大きな出会いに恵まれてきました。グランドオープンの前年には、世界で初めての雌のメガマウスザメが水族館すぐ近くの博多湾雁ノ巣海岸に漂着し、国内外のサメ研究者とともに共同研究が行われ、グランドオープン時には全身液浸標本として展示されました。日本海側初記録でもあり、太平洋から日本海に流れ込む対馬暖流に乗り、はるばる博多湾までやってきたメガマウスザメはグランドオープンの象徴的な存在でした。
全館リニューアル工事の準備で忙しくしていた平成27年には、豊前海の北九州空港沖で体長15mのマッコウクジラが漂流しているのが発見され、福岡県苅田港務所のご好意により苅田港に引き上げられ解剖調査後、貴重な頭骨を寄贈して頂きました。水族館裏の砂浜に2年間埋設し、開館30周年事業として骨格展示することになりました。グランドオープン時のメガマウスザメ、リニューアルオープン時のマッコウクジラと大きな節目に、「これからも水族館を大切に守りなさい」と海から大きなプレゼントを頂いている気がします。
リニューアルにより展示テーマは「九州の海」と新しく変わりました。地域に密着した水族館として九州の地理的な成り立ちや海、そしてそこに暮らす多様な生物、さらに陸水環境の展示と保全を新たに開拓して行きます。自然を敬い代々受け継がれてきた貴重な歴史文化を紹介し、保存する活動もこれから展開してまいります。
開館30周年を迎えるにあたり、これからも地域にしっかりと根をはり、幹をさらに太くし、さらに皆様に愛される水族館を目指し、スタッフ一同頑張ってまいります。