毎年北風が吹くこの時期、海水温が下がると深海魚を捕獲するチャンス到来です。
当館での深海生物の収集は漁船に乗船し、水深300m前後から網やかごで捕獲されるものから分けていただいています。
しかし、深海から船まで引き上げる間には水温や水圧などの環境変化はもちろん、網によるダメージなどが原因で漁獲物の90%は水槽で生かすことはできません。
水深300mでの水温は季節による変化はなく一年を通して12℃ほどですが、表層では冬に20℃、夏は25℃を超えます。
せめて水温差が少ないこの時期が採集のポイントです。
また、船上でクーラーなどに収容し、水槽を装備した車に運び入れるまでの長い時間は気温も重要なため、真夏の採集は当然生存率が下がります。
過酷な状況に耐え、何とか生存できる生き物を収集し、水槽展示までにたどり着けるのはごくわずかなのです。
当館の深海の展示水槽は4つあり、一辺倒の展示ではなくそれぞれ特色を持たせるため、なおさら苦労が絶えません。
しかし、珍しい種を展示できた際の達成感は飼育係冥利に尽きます。
私は入社以来28年ほど深海漁に乗船し収集していますが、未だに新しい発見があり初めてみる深海生物を目にします。
図鑑に載っていない種もあり、調べるのも一苦労ですが、それほど珍しいことであり、多くのお客様に見ていただきたい気持ちが強まります。
2021年は11月に宮崎県延岡市沖日向灘、12月に静岡県焼津市沖駿河湾で乗船採集を行い
初めて採集できた、カニの仲間「ハサミアシホモラ」や「コウダカオーストンガニ」などを展示できました。
また、久しぶりに採集した大型の「オオホモラ」「オオエンコウガニ」などのカニは、深海のカニで有名な「タカアシガニ」より捕獲例が少ない種です。
漁師さんの協力のもと、希少な種を展示でき充実した採集年になりました。
多くの水族館で深海生物は展示されていますが、マリンワールドに来なければ会えない深海生物が展示できれば最高です。
2022年も多くの深海生物が飼育でき、皆様に紹介できれば幸いです。
魚類課 鈴木 泰也